| 条件名 | 内容 | |
|---|---|---|
| A | 特定可能性 | 患者情報を開示しないことによって、リスクを負う当事者が特定可能であること |
| B | 有用性 | 開示される情報が有用であること |
| C | 深刻性 | 当事者が負うリスクが深刻であること |
| D | 無危害性 | 情報の開示が患者に危害を及ぼさないこと |
| E | 緊急性 | 当事者の負うリスクが差し迫っていること |
| F | 代替不可能性 | 親族が患者情報の開示を除いて、他に情報をえる手段がないこと |
| G | 公益性 | (暫定条件) リスクが公衆衛生上の脅威であること |
表1:例外的に医療従事者が患者情報を開示可能な条件(全条件の充足が必須)
*: 責任著者
| 社会環境 | 有用性(条件B) | 代替不可能性(条件F) |
|---|---|---|
医療資源が豊富: ・公的保険が遺伝子検査をカバーしている。 ・遺伝子検査の実施を各人に推奨 | 満たす。 →疾患の予防措置や遺伝子検査が広く利用可能で、患者の遺伝情報が親族の意思決定に有用。 | 満たさない。 →遺伝子検査の実施によって情報を取得可能。患者情報は親族の唯一の情報源ではない。 |
医療資源が乏しい: ・遺伝子検査は公的保険でカバーされていない。 ・検査を実施している医療機関が少ない。 ・疾患の予防策がない | 満たさない。 →患者の遺伝情報を得られても、予防策がないため、親族の意思決定に対する影響は限定的。 | 満たす。 →遺伝情報の取得が困難であり、親族が唯一の情報源。 |
有用性(条件B)と代替不可能性(条件F)が両立しない社会
| 日本の医療制度 | 有用性(条件B) | 代替不可能性(条件F) |
|---|---|---|
・公的保険でカバーされている遺伝性疾患は非常に限定的。 ・着床前遺伝子検査(PGT-M)の利用は非常に限定的。 | 満たさない。 →患者の遺伝情報を得られても、予防医療を受けることができる疾患は限定的。 | 満たす。 →遺伝情報の取得が困難であり、親族が唯一の情報源。 |
表3:日本の医療制度における有用性(条件B)と代替不可能性(条件F)の充足状況
本研究は、以下の支援により実施しました。
*1:着床前遺伝子検査(PGT-M)
妊娠前に体外で受精させた胚の染色体や遺伝子の検査を行い、病気を持たない可能性の高い胚だけを選択し、子宮に移植して育てる技術。妊娠後に検査を行う出生前診断とは異なり、現在日本で診断の対象となる患者は限られている。
PGT-Mは1つの遺伝子によって発病する、単一遺伝子疾患を防ぐ目的で行われる着床前診断。対象となる疾患は、次の重篤性の基準で評価されている。
「原則、成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が出現したり、生存が危ぶまれたりする状況になる疾患で、現時点でそれを回避するために有効な治療法がないか、あるいは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要のある状態」。
審査経験のない疾患申請の場合は、専門学会に依頼することが必須とされる。学会から提出される意見書には「PGT-M を希望するご夫婦の生活背景や置かれた立場・考えも考慮し判断を行った結果を示す。」とされている。
*2:家族性腫瘍
ある家系において、疾患の原因に関わらず、がん患者が多い場合を家族性腫瘍と呼ぶ。遺伝学的な検査を実施して、疾患の原因として病的な変異(病的バリアント)の影響が認められた場合、遺伝性腫瘍と呼ぶ。
2025年現在、日本で遺伝子検査や専門家による定期的で高度な検診に公的保険が認可されていない家族性/遺伝性腫瘍には、遺伝的な要因によって大腸がんや子宮内膜がんなどを発症しやすくなるリンチ症候群や、TP53遺伝子の変異によって家族内で様々な種類のがんが多発するリー・フラウメニ症候群などがある。
*3:BRCA1/2遺伝子検査
DNAの傷を修復して、細胞ががん化することを抑えるBRCA遺伝子の病的な変異(病的バリアント)を調べる検査。遺伝性のがんの一種である遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC: Hereditary Breast and Ovarian Cancer)にみられるBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的な変異は、性別を問わず親から子へ50%の確率で受け継がれるとされる。
2020年4月から、遺伝性乳がん卵巣がんの患者に対して、リスク低減手術や造影乳房MRI検査による定期的な検査が保険適用となった。